パブリックエネミーナンバーワン


先日のこと、駅のホームに突っ立ってボーっとしている僕の目の前に、バタバタと羽音を立てながら、黒っぽい虫が飛んできました。それほど気にすることも無く、ぼんやり見ていると、その虫はそのまま、僕の胸の上に。虫は全然苦手じゃないし、幼少期にはファーブルに夢中になったりもしたし、「おやおや、まあまあ、何ですかあなたは。」位のテンションで胸の上に目をやると、そこには小刻みに触角を動かしながらこちらを伺う、体長4cm程のゴキブリ様がいらっしゃったのでした。


「ギャー!!」とは叫ばないけど、常日頃、素面の状態でセカンド以上に上げる事はほとんどない僕のテンションは、一気にトップギアに入ってしまい、物凄く前衛的なダンスを、急に猛スピードで始めた人、みたいになって大暴れしたのですが、ゴキブリ様は逃げるどころか、そのまま僕の背中側に回り込み、頭の上に上ってきたのでした。自分でも聞いた覚えの無い妙なうめき声を発しながら後頭部をかきむしる僕の姿は、前衛的なダンスというよりは、異界とのコミュニケーションを突然始めた人のようだったに違いなく、ゴキブリ様が僕の頭から飛び去って行った後、ようやく人心地ついた僕に対しては、周囲から冷たい視線が射さりまくっていたのでした。


僕の故郷である北海道にはゴキブリはほとんど生息しておらず、その姿を見る事は稀である、というのは、道産子の人にほぼ当てはまる共通認識であると思います。僕も上京してくるまで、生きたゴキブリを見た事はありませんでした。「生きた」と限定したのは、中学の修学旅行で青森に行った時に、アスファルトの上で死んだゴキブリを見た事があるからです。何でそんな事を覚えているかといえば、その姿を発見した僕を含め、周りの連中は割と皆、興味深そうにしていたから。「これが噂にきいたゴキブリか。」みたいな感じ。でも、その五年後、烏山のアパートの台所で、生きているゴキブリの姿を初めて確認した時は、嫌悪感、戸惑い、殺意、そんなものが錯綜し、一瞬にして、「こいつ嫌い!」と声を大にして叫びたくなったものです。なぜそうなるのか。ちょっとだけ考えて、導き出してみた結論。


第一に、その機動能力。一瞬にして御器の陰にも、頭の後ろにも回りこめてしまう。感度の高そうな触角を細かく動かしながら、シャカシャカと動きまわる、そのスピード感が、とにかく受け入れがたいものなので、人は拒絶反応を示すのではないでしょうか。第二に、その神出鬼没感。今!?そこで!?みたいな遠慮の無さこそ、高度な社会生活を営んでいると自覚している人間にとって、一番の恐怖なのではないでしょうか。


……「ゴキブリ」と名付けた曲を、イーピルイーピル(自分のバンド)で四年位前に録音したのだけど、発表の機会も無いまま、何年も経ったので、今日ここでアップしよう、と思って何時間も悪戦苦闘したのだけど、わからん!!全然わからん!!もう朝方だよ、この野郎!!もう寝る!!


やけくそ気味で最後に、キース・リチャーズ語録から、大好きな言葉をひとつ。世界で最後に生き残るのは?と問われて答えた、キースの言葉。


「ゴキブリと俺だろ! 気を付けろ、ゴキブリ! 俺に食われるぞ!」