父親9ヶ月目

二十歳でガンで亡くなったいとこがいます。彼の父親は、地方都市ではちょっとした権威な感じのお医者さんで、長男である彼は当然のように同じ道を歩む事を期待されて、父が通った国立大学の医学部を目指して、浪人生活二年目でした。私の母方の兄弟は五人兄弟。父親が早く亡くなった事もあってか、何となく結束感が強く、何かというと一族みんなで集まりたがりで、上から下まで10歳ほど離れたいとこ同士も、幼い頃からよく顔を合わせていました。そんな集まりにも顔を見せなくなり、最近見ないなあ、と思ってたら、お葬式。何も聞かされてなかったので、かなり驚いた。
まだ学ラン着て葬式に行くような年だった私。祭壇の前で、彼の事を思い出そうとしたけど、ほとんど思い出が無い。私に輪をかけて無口だった彼と話した記憶は数えるほど。何回も会ってるのに。しかし、二十歳って。
最後のお別れで、棺に花を入れてあげながら、彼の顔をじっと見つめた。結束固めの一族、泣きじゃくりまくり。そんな中、じーっと見た。「ほんとに、医者になりたかったのかなあ。」そんな事をふと思ったら、涙が止まらなくなった。
彼との数少ない思い出の一つ。まだお互いに小学生くらいの頃。親に、遊んであげなさい、と言われた彼は僕を連れ、自分の部屋へ入れてくれた。すごいなあ、専用部屋だ、なんて思いながら、彼の顔を見ると、明らかに戸惑っている。何していいかわからない、って書いてあるよ!なんて。部屋の端の机の上に、何か生き物がいるらしいガラスケースがあった。「これ何?」と私。「イモリ」と彼。近くで捕まえたんだ、と言う。それを、じーっと二人でしばらく見つめてた。
俺も死ぬ。君も死ぬ。みんな死ぬ。満足してようが、後悔してようが、何も思ってなかろうが、死にます。かわいいかわいい娘も死ぬ。でも先に死なないでね。そんな親の気持ちも分かるようになろうとは。びっくりっす。一方的な思いで、窮屈にさせないようにしてあげたい。まあ、俺が何言っても、何の説得力も無さそうだから、気にしないだろうけど。ひろちゃんは、本当に、どう思ってたんだろう。